集合住宅

蛇の道はheavyだぜ

スパークリングミソスープ

(これは私が高校二年生の時に書いた文章です。 実家に帰ったときに見つけて懐かしく思い、載せることにしました。しかしそのまま載せるにはおかしい点や、恥ずかしい箇所もあったのでほんの少し修正しています。) 

ある日私の友人のSが言った。『味噌汁を炭酸で割ったら、意外といけるんじゃね?』と。これは私と私の友人S・友人Zによる、興味という衝動に駆られ苦しみ抜いた実録である。

友人Sは私に提案をした。私と一緒に味噌汁を炭酸で割らないかと。私は賛同した。面白そうだと思ったし、味噌汁と炭酸を足し算した飲み物の味を想像出来なかったからだ。そして、『もしかしたら美味しいかもしれない』と思い友人Zと共に快諾した。

三人で計画を立てた。私が味噌汁と炭酸を混ぜるための紙コップを持ってくる担当になり、友人Sが炭酸を買ってくる担当になり、友人Zが味噌汁のもとを買ってくる担当になった。炭酸を加糖炭酸にするか無糖炭酸にするかを考えたが、砂糖の入った炭酸と味噌汁では、甘さと味噌の風味が仲良くできないだろうと判断し無糖炭酸を選択した。具は豆腐の入ったものにしようと全員の意見が一致した。 
そして運命の日が訪れる。これを読んでいるあなたは炭酸味噌汁の味をどう想像しているだろう。 
まず結論から言うならば、最悪である。この世に生み出してはならないものは、核兵器と炭酸味噌汁だ。と今なら断言できる。
 『熱いお湯で味噌を溶かしたら、後から炭酸を入れた時炭酸が飛んでしまうだろう。』と考え、味噌を常温の無糖炭酸で溶かすことにした。が、誰も混ぜるためのマドラーを持ってきていなかった。どうしよう。
 そこで、何故か友人Zがたまたま持っていた未使用のドライバーを、マドラーとして使用することにした。
 (何故あの時友人Zがそれを持っていたのかは今でもわからない。本当に偶然なのである。) 『プラスドライバーとマイナスドライバーとどっちがいい?』
と友人Zが私に判断を仰いだので、 
『なんとなくマイナスドライバーの方が混ぜやすそう』と返答した。友人Zは、 
『プラスドライバーもいいと思うんだけどなあ』と言いながら、マイナスドライバーで味噌を溶かした。 人数分の紙コップが三つ、教室の上に並んでいる。私たちはそのスメル、臭いに驚く。そして悟った。これは嗅いではいけない臭いだと。

『これを最初に誰が飲むのだ』と友人Sが言った。しかし誰も手を挙げなかった。進んで飲みたくないし、誰かの反応を見てから飲みたかったからだ。その雰囲気を理解した私は小さな勇者となり、その紙コップを手に取り、仰いだ。『美味しくはないけれど、飲めない味ではない。』と、口の中に押し寄せる混乱の中で私はそう判断した。 
しかし私は気づく。これは味がどうこうという問題ではないと。私の体が、私の肉体がこの炭酸味噌汁を下界へ追いやろうとするのだ。吐き気。思わず口元を押さえる。私はしばらく教室の床にうずくまり、自分の中のマーライオンと戦っていた。 だしの風味と無糖炭酸の奏でるハーモニー。それは完全なる不協和音。無糖炭酸自体にある違和感のあるような苦味を隠すこともせず、むしろ味噌の中に入っているだしがそれを引き立たせているのだ。常温の無糖炭酸では溶けきらなかったそのだしは、ひたすらに喉越しにイガイガとした違和感を覚えさせ吐き気に直結させている。 友人Sも友人Zもおぞましい飲料を口に含んだ後、不可抗力のように地に伏せた。きっと私と同じような感想を抱いたことだろう。 

この炭酸味噌汁をどうしようか、と考えた。食べ物をすぐ捨ててしまうのは道徳的に耐えられなかったし、他の友人にも同じ苦しみを味わわせたいと思い、友人達を騙して飲ませようと決めた。 しかし、ある友人からは私たちの作業行程を眺めていたので、拒否された。他の友人にも声をかけたが逃げられた。なんとか一人を無理やり騙して飲ませることができたものの、コップの中の炭酸味噌汁は減らない。
そこで友人Zが『私たち三人でじゃんけんをして、負けた人が自分の持っている炭酸味噌汁を一口飲むのはどうか』という提案をする。私たちは不毛なじゃんけんを繰り返した。炭酸味噌汁を口に含むことはもはや罰ゲームだった。 言い出しっぺの法則というものがあるのか、友人Zは五回もじゃんけんに負けた。友人Sはじゃんけんに三回負け、そして私は一回しか負けなかった。

結局残った炭酸味噌汁は排水溝に捨てることにした。しかし炭酸味噌汁は私たちを一日中苦しめた。口の中がずっとずっと炭酸味噌汁の味なのだ。その味はいつまでも鮮明だった。もう何度も口をゆすいでゆすいでいなくなったはずなのに、炭酸味噌汁が居続けているような錯覚がする。勿論授業中の集中力は低下したし、母が作ってくれたお弁当も果物も、何を食べても炭酸味噌汁の風味がするような気がして美味しく感じられなかった。 
 最後にこの文章を見た人に言いたいことが一つある。
私は全くもってお薦めしない。 炭酸味噌汁という、五臓六腑が拒否反応を起こす飲料を。