集合住宅

蛇の道はheavyだぜ

私の女の子らしさ 女々しさ 2

ある出来事が起きた。

高校三年生の時のことである。受験が終わり、最終登校日も終わった頃、私は運転免許を取るため1ヶ月ほど徳島県にいた。
修了検定を何とか終わらせ、仮免許を取って数日後、三時間の高速教習があった。
高速教習では、教官と三人の生徒が一つの車を用いて高速道路を練習する。
その三人の生徒は私と看護系の女子大生と、男子高校生だった。

その女子大生は車内の空気を簡単に支配した。いつの間にか彼女が話していて、それの相づちを教官が打っていて、私はただの聴き手だった。
私はこの車内の居心地が悪かった。彼女のようなタイプの人が苦手だからだ。
『このあいだ観てきたんですよーレ・ミゼラブル。 オトコトモダチとー、行ったんですけど、あれほんと泣きましたよー』
私にとってマイナーなカタカナ語と同じぐらい縁遠い存在である『オトコトモダチ』という言葉を彼女は簡単に口にした。『オトコトモダチ』という言葉を言い慣れた感じで言っていた。

『前付き合ってたカレシとはー付き合ったり別れたりしててー友達からはあんたにはそいつしかいないから結婚しろって言われてるんですよー』
『そいつとは半同棲しててー』
『私歌上手いんですよ カラオケでは盛り上がる曲をいつも歌ってて、Superflyとかよく歌ってます』
『私料理しますよ!前のカレシのとこにもよく作りにいってました。グラタンとか。』
『フットサルとスノボとか、体動かすことが好きでー、毎年冬はスノボしてますね』
スラムダンク面白いですよねー』

彼女はありとあらゆるジャンルの話に詳しいようで、教官の興味を絶えず引いていた。話すのも自分をアピールするのも上手だった。
彼女の肌は私よりも綺麗だったし着ている服や髪型もお洒落だった。しかし彼女はブスという程ではないが、そんなに可愛い顔をしていなかった。それなのにどうしてそんなに自分をアピールできて、自分に自信があるんだろうと思った。

それは実績があるからだ。この人はモテてきたのだ。女は過去に裏打ちされて初めて自信を持つのだ。
彼女の話を聞いていて、彼女は中学も高校も、教室の中の強者だったのだろうと思った。教室の中の強者だった彼女は、卒業してもそのままずっと強者なのだろうと思った。

この人と対峙したことで私はずっと不戦敗を続けてきたのだと悟った。ありとあらゆる女の子にとって、私は最も無害な存在なのだと。
現に車内で彼女は私に勝っていた。キラキラと輝いていた。私はその時初めてお化粧品が欲しいと思った。

教習終了後、自転車を走らせてドラッグストアへ赴き、安くて粗悪な化粧品を適当に買った。どれがいいとかわからなかったし、用途すらわからなかったけど衝動的に買った。私は醜くて卑しくて女々しい、女であることを自覚した。悔しいけど私は女なんだ。女だから今悔しいって思ってるんだ。
強者にはなれなくてもいいから、有害になりたい。彼女たちのことをたまに脅かせるようなそんな存在になりたいって思った。

それが私の化粧に手を出したきっかけである。
きっかけはこんな形であったが、化粧をすることが楽しいことに気づけたし、女の子らしくしたり、自分を着飾ることの楽しさにも気づけた。私にとっては転機である。