集合住宅

蛇の道はheavyだぜ

『サトちゃん』

あなたはサトちゃんを知っていますか。


サトちゃんムーバー: http://youtu.be/veVrk3pWjIc



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そう、こいつだ。ドラッグストアの店頭に置かれていて、金を入れると2~3分の前後運動を繰り返す象だ。しかも、物凄く耳に残るメロディーを大音量で流しながら動く。
(そもそもサトちゃんムーバーにどれだけの知名度があるのだろう。見たことがあり、乗ったことがある人がいれば是非教えて欲しい)


幼い頃、こういった乗り物に乗りたいとせがんだ時、いつも母からだめと言われた。
しかしサトちゃんに乗りたいという頼みはいつも簡単に聞き入れてくれた。何故ならサトちゃんは一回10円で動いてくれるからだ。だから小さい頃はよくサトちゃんに乗っていた。



最後にサトちゃんに乗った日のことはよく覚えている。
それは私が小学五年生の頃だ。あまり行ったことのないドラッグストアで、サトちゃんを見つけた。
その頃になると、近所のどのドラッグストアでもサトちゃんを見かけなくなっていた。だから久々に見つけたときに、懐かしい旧友と再会したかのような嬉しい気持ちになったのだ。
またあの、妙に耳に残る歌が聞きたい。しかも10円だ。経済的損失も少ないと思い、お金を入れた。自分のお金をサトちゃんに入れたのははじめてだったと思う。

サトちゃんに跨がった時に気づいた。その椅子はもっと小さい子のために出来ている椅子だと。腰を浮かせて無理矢理乗ると、あの陽気なメロディーが流れ前後運動が始まる。

跨がってしばらく経つと、むくむくと自分の中で羞恥心が湧いてきた。私みたいな大きい子どもが、サトちゃんみたいな小さい子ども向けの乗り物に跨がっているところを人に見られたら、とっても恥ずかしいなと。
しかし、それはお金を入れる前に、もしくはサトちゃんに跨がる前に気づくべきだったが、小5の私は『サトちゃんの歌』がサビの直前になるまで気付けなかった。
誰かに見られたらとても恥ずかしい。見つかる前にと思い、サトちゃんから飛び降りた。



その日は小雨の振る昼だった。空の色も駐車場のアスファルトと同じような暗い色をしていて、私の持つ赤い傘と、サトちゃんのオレンジ色だけが鮮やかだった。

誰も人を乗せていないサトちゃんが、雨の中陽気で楽しい歌を歌いながらウイーンウイーン動いている。私はサトちゃんに背を向け離れていく。静かな雨の中ドラッグストアの駐車場に大音量の『アーリーガトー クスリヤサンー ボークノイーエー♪』が虚しく響く。こんなに寂寥感のある『サトちゃんの歌』を聞いたのは初めてだった。
父の車の後部座席に座って、もうサトちゃんの歌は聞こえなくなったけど、サトちゃんが前後に動く姿だけは遠巻きに見えた。