集合住宅

蛇の道はheavyだぜ

図書館の記憶 1

中学三年生から高校三年生の頃、市立図書館に足繁く通っていた。本を読むことが楽しかったから、というのも一つの理由だが、あの図書館が好きだったからだと思う。
家に持ち帰って本を読んでいるときよりも、借りる本をどれにしようかと探して回る時の方が心躍っていた。あの図書館にいる時間はとても尊く、特別なものだった。

その図書館は、紡績工場の跡地に出来、煉瓦造りになっている。明治大正を彷彿とさせるような古めかしさと異国情緒のあるそこは、私の少女趣味を満たしてくれる美しい場所だった。


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図書館を歩くとき、私は海の中を歩いているような錯覚に陥る。膨大な本棚と書籍の海を抜け、一冊を手に取るとき、その本に何か絆のようなものを感じた。


主に借りるのは小説(あまり賢い本は借りなかったな。いかにもティーンエイジャーが読みそうな本を読んでた。)だったけれど、たまにエドワードゴーリーの絵本を借りてみたり、羅生門の映画のVHSを借りてみたり、めぞん一刻を全巻借りてみたり、料理本を借りたりしていた。


ある料理本を立ち読みした際に、ページをめくるとふわりと油のにおいがした。そのページには、『パスタフリット』の作り方が書いてあった。この本を借りた人が、この本を見ながら料理を作ったのだろうかと妄想した。この本は料理のにおいを記憶している、幸福な本だと思った。私は頬を緩ませてその本を閉じる。



司書のお姉さんになりたい、というのが当時の私の夢だった。あの人達はいつも静謐で、どこか優美で、無駄のない動きをしている。

借りたい本が一般書架にはなく書庫にある場合は、司書の人に声をかけて取りに行ってもらう。書庫へ行く姿はいつも背筋がのびていて、凛としていた。
彼らは図書館の深海から、一冊を見つけて取ってきてくれる。書庫へは司書の人しか入ることができないので、私はそこを見たことがない。だからその場所を勝手にロマンチックに夢想している。