集合住宅

蛇の道はheavyだぜ

雪の降る日に

某月某日
この街に雪が降った。積もるほどではない、短期的な粉雪である。口を開けたり目を開けたりしていると雪が入ってくるので、口を固く閉じ、薄目を開けて自転車を漕いでいるとたまらない窒息感に襲われる。バイト先のスーパーに近づけば近づくほどより雪の量が増えるので、このスーパーがこの街の雪の発生源なのではないかとすら思われた。

雪の降る日はある日のことを思い出す。高校の修学旅行で、Zと二人でログハウス調のカフェに居たときのこと。
自由時間に、寒いからここで一緒に寛ごうとどちらからともなく提案して、そこに入った。外は雪が積もっていて寒い夜だった。
店内は木目の穏やかな雰囲気を持っており、オレンジの光が目にも心にも暖かだった。

具体的に何を話したかはあまり覚えていない。私はあのときハーブティーを頼んでいて、(けして美味しくもないし独特の酸味のあるあれを、当時の私は格好つけて頼みたがっていたのだ) 彼女はこの店お薦めのホットミルクを頼んでいた。そのホットミルクは不思議なホットミルクのようで、表面は冷たく中の方は温かくて甘い。二人とも飲み慣れない飲み物を背伸びして頼んで、首を捻りながら飲む。
室内は暖かだが、窓に触れるとツン、と外の冷えた温度が電流のように指先に伝わる。窓の外を見る。『夜の底が白く冷えた』というのはこういう情景なのだろうかと夢想する。暗闇の中に白い斑点がちらちらと明滅するかのように落ちていく。雪の降る日というのはどうしてこんなにも静謐なのだろう。周りの音を吸着しながら、ゆっくりと落ちていくように思われる。その落ちていく雪を眺めていると、時間がまるでストップモーション・アニメみたいに細切れになって、ゆっくりになったみたいに思えてしまう。
何を話したかは覚えていない。窓の外を眺めたり、口に合わないハーブティーで体を温めたことしか覚えていない。それでも私は彼女と何かを共有していて、このゆっくりとした時間の中に安らぎを感じた。どうかこれが永遠に続けばいい、それが無理ならどうか彼女もこの時間のことを覚えていてくれたらいい。そんな風に思ったのだ。