集合住宅

蛇の道はheavyだぜ

12月3日

その日、水曜日なのに珍しくバイトがなかった。普段働いている時間が休みだとそわそわする。その日は、一人で有意義に過ごそうと決めた。もし、家にTSUTAYA DISCASからのDVDが届いていたら鑑賞し、まだ届いていなかったらネットカフェに行ってみようと決める。

家に帰ると、私のドアノブにかけられた紙袋のなかに、DISCASの封筒はなかった。ネットカフェ行き決定。


自分の最寄りから各駅で四駅ほど離れた駅へ行った。その駅は乗り換えではよく使うが、降りたのはこれで二回目だ。一度目は高校生の時。大学受験の際に利用したホテルがその駅の最寄りだったのだ。
その時、私はこの駅周辺は下品で、原色に溢れた街だと思った。しかもその駅はなんとなくイメージが悪い。

五時半とはいえもう日が落ちているし、一人でその街を歩くのは少し怖い。だから私はヘッドフォンを装着し、サムライアンブレラの柄をきつく握りしめていた。
ヘッドフォンは外界の拒絶の表れだ。
サムライアンブレラは『万一何者か私に声をかけてみろ、叩ききってくれるぞ!』といったような勇気を与えてくれる。雨具としても使えるし、こんな変な傘を持ってる子には誰も声をかけたくないだろうし、最高の相棒だ。

淡路の外からあまり出たことがなく、葉桜の緑色しか知らないような少女だった私ではもうない。看板の原色の緑も歓楽街のネオンの色も知っている。だからあの頃に比べたら耐性も出来ていたように思う。

適当に歩き回ってネットカフェを発見し、四時間引きこもる。料金は980円。

セーラームーンの原作漫画を読んでいたのだけど、ダークキングダム編を読み終えたあたりでやめてしまった。確かにあの時代にはるかやみちるのようなキャラクターを生み出したり、天体を擬人化したり、美少女が戦うなど斬新なことをやっている。しかし、原作版は『月野うさぎ地場衛』に重きを起き、徹底的に月野うさぎを主人公として描き、ロマンチックな要素も強い。アニメだと展開も遅く、うさぎ以外の戦士や敵キャラの掘り下げも多いため、キャラが立っている。
あくまで原作のことは『原作』として素晴らしいとは思っているが、私が好きなのはセーラームーンの『アニメ』なのだなと思った。

その後は惡の華を一気読みした。変態的で過激な行動が目につくが、この話は暗い青春の話だと思った。自らにも心当たりのあるような内容だった。
凄いのは、鬱屈した中学生時代を前置きとして扱い、仲村さんを失って脱け殻のように過ごす高校生時代が描かれていることだ。それに関しては賛否あるようだが、私はいいと思った。
痛くて苦しくなるような苛烈な中学生活は虚構的な、あくまで物語的な感じがしてむしろ救いがあるように思う。泥濘のような高校時代の方がより現実的で、救いがなかったように思う。
そして最終回の演出もよかった。最終回は一話を仲村さんの視点から描いていて、絵柄もあえて一話と同じ絵柄でかかれている。最初と最後をその話で閉じたことで『ああ、この話は春日くんと仲村さんの話だったのだな』と思えた。台詞の数が多いわけではないので、スピーディーに読めるのだが、内容的にカロリーが高くて読んだ後少しほの暗い気持ちになる。面白かったと思う。

惡の華を読み終えたらネットカフェを退出し、刀の柄を握りしめながら駅に向かい、そのまま帰った。終わり。楽しい平日だった。
いつか12時間予約して、ネットカフェで寝泊まりし、ネットカフェから大学へ行くのが夢である。