集合住宅

蛇の道はheavyだぜ

starlight

冷たい空気と空気の間を切り裂いて、自転車で団地の急な坂を降りていく時、自らが流れ星になったような不思議な心地によくなった。冬はいつも空が澄んでいて、頭上には無数の星屑があった。
家までの路には街頭が少なく、住宅の明かりもまばらに灯っている。自転車の明かりも弱く心許ない。月明かりが最もはっきりとした照明で、後は黒々とした夜だった。田舎の夜は暗くて深い。
そのせいか、よそ様の家の穏やかな色の白熱灯の前を通る時、私の心は自然と少しだけ温もっているのだ。


急な坂を下ればすぐに私の家がある。庭に母が立っていた。つい最近一帯をコンクリートで固めたばかりのその庭は随分と荒涼とし、また寒々しそうに見える。
『おかえりなさい。星を見ながら待っていたの。』
母はそう言って微笑んだ。母は桃色のネグリジェを着て、白いジャンパーを羽織っていた。洗いたての濡れた髪が月の光の下で輝いている。

母が星を見ながら私を待っていたことがとても文学的で、美しいことだと思った。空を見上げながら星の美しさに恍惚としている母の姿もまた、いつもよりも美しく見えた。何もかもがいつもよりも美しく見える、魔法にかけられたみたいな夜だった。

『お母さん、風邪引くよ。大丈夫?』
『うん、大丈夫よ。それより見て、雫。とても星が綺麗よ。』
母に促され空を見上げると星たちが煌々と光っていた。今日は一段と星が綺麗に見える。冬の痛いぐらいに清浄な空気がよりこの空を綺麗にしているのだろう。私の住むこの町には何もないけれど、星だけは綺麗だ。感嘆のため息を漏らすと、もくもくと白い煙があがる。
母と肩を並べて星を眺めながら、しばらくの間無言を共有していた。