集合住宅

蛇の道はheavyだぜ

火葬場

最近の霊柩車は、黒塗りの車に金ぴかのお寺みたいなのが乗ってるやつではないようだ。私の祖父は白いメルセデスベンツのリムジンに乗って颯爽と火葬場へ行っていた。
霊柩車がリムジンというのは私のケースだけではないようで、最近不幸があった友人も『私の時もリムジンだった』と言っていた。

母とバスに乗って火葬場へ行った。車内では鼻をすする音が聞こえていたけれど、着く頃には止んでいた。

火葬場の見た目は凄くエレベーターホールに似ている。ほんとにエレベーターホールに似ている。
案内人の人が喪主の伯父を促してボタンを押させていた。そのボタンを押すと、火葬が始まるらしい。私だったらそのボタン押したくないなって思った。

遺体が灰になるまでに一時間以上かかる。その間親族たちは寛ぎながら待つ。火葬場ではお昼は出ないので、大量に残っていた朝の弁当を遠縁の親族に配る。近縁の親族たちはその間おかしを食べていた。血族たちの嗜好は似ているのか、甘納豆が大人気ですぐ無くなる。栗饅頭も大人気。渋い甘味がどんどん無くなっていくのに微笑ましい気持ちになる。

お菓子を食べながら、伯母と色々な話をした。その話は私にとっては重要で、覚えておきたいことだから書き留めておく。

『お葬式って嫌なものやね。』
『そうですね。数年ぶりに皆の顔が見れて嬉しい気持ちもあるんですけど、それがお葬式というのが複雑です。』
『うん。淡路の外を出て皆忙しいもの。』
『今まで自分が一人っ子であることに不満はなかったんですけど、こういうことがあると、兄弟や親族が多くいるのっていいなって思います。私の場合、一人娘だからもし父や母が亡くなったら、私が喪主をして一人でやらなきゃいけない。そう思うと辛いなって。』
『雫は確かに一人っ子だけど、でもいとこたちが助けてくれるよ。皆歳が近いし。きっと頼れるよ。』
もし、父や母が死んだとき三親等にあたるいとこたちは来てくれるのだろうか。物理的に仕事を休んで来られるのだろうか。という思いも頭をもたげたが、それでも伯母の言葉が嬉しかった。私には兄弟はいないけど、いとこはいるんだって思えた。

『A兄ちゃん、雰囲気変わりましたね。凄く落ち着いた見た目になったし、昔よりも柔らかい表情を浮かべている気がします。』
『せやね。おじいちゃんが亡くなる前に奥さんと実家に謝りに来て和解できたこと、ほんとによかったって思ってる。もし出来てなかったら、きっとお葬式になんて来られなかった。
告別式でAがね、
「おじいちゃん迷惑かけてごめんな」って言って泣いてた。皆の前でそれが言えたこと、偉いなって思ってる。
Bのことも、運が良かった。おじいちゃんが亡くなったその日にBに連絡したから、Bはお葬式に来れた。もし次の日に連絡してたらBは中国に行ってたから、死に目に会えなかったかもしれない。』


火葬を待っている間、火葬場近くにある墓地へ父と母と伯母と伯父と私で行った。
そこには父と母のお墓と叔父と叔母がある。
生きているうちにお墓を作ると長生きができるって言われているのと、自分が死んでから雫がお墓を作ったりなんやかんやするのは大変だろうと思って作ったらしい。
そこは新しく出来た墓地なので、生前に作られている墓ばかりだった。
(お墓の主が生きている場合、名前の部分が赤字になっている。亡くなったら、赤字の部分を上から白く塗りつぶす。)
父の家の墓と叔母の家の墓を見たあとは、他の家の墓を見て回った。
宗教によってお墓が違うので、見ていて面白かった。日蓮宗のお墓は正面に『何妙法蓮華経』がかかれていたり、どこの宗教なのかはわからないが、『妙法』とかかれている置き型のパソコンみたいな形の墓も多くあった。その他にも可愛いふくろうの置物があるお墓や、洋風のお墓、釣竿とクーラーボックスの絵がかかれたお墓など個性的で面白いお墓もあった。

お墓ツアーを終えて火葬場に戻って数十分後に、火葬が完了した。
私はお葬式自体は一度経験したことがあるが、火葬された遺体を見たり、骨を拾ったことはない。その時たまたま迷子になっていたためだ。今回が初だ。

釣竿と杖が焼いてもしっかり形が残っていたので、皆笑った。


祖父は持病も特になく、健康なまま亡くなったので、立派に骨が残っていた。
その部屋は熱くて乾燥していた。同様に私の心も乾燥していた。辛いとか悲しいだとか思わなかった。泣きすぎたり歩き回ったりしてただ疲れていた。
『ああ、人って火葬したらこうやって骨が残るんだな』っていう、知ってはいるけどピンと来ていなかった乾いた事実がそこにあった。人は死んで焼いたら骨になるんだ。私は無味乾燥としたその骨を祖父だと認識していなかったかもしれない。

案内人の誘導するまま、親族が骨を箸でつまんで骨壺に入れる。順番があるようで、最後に喉仏の部分の骨を喪主である伯父が入れていた。残りの骨は納骨堂に納められる。強い疲労感が残った。

骨上げを終えたら、バスに乗って料理屋さんに行く。精進落とし。
親族を末席に座らせ、来賓やおじゅっさんを上席に座らせる。その座る位置はとても重要なものらしく、決めるのにかなり時間がかかっていた。

父・伯父・A兄・A兄の嫁が率先して接待をやっていた。A兄は本当にいい方向に変わったと思う。もう彼は大丈夫だと思った。
人見知りの母も頑張って接待をしていたけれど、耐えられなくなったのか私の方に来た。私もお酌をしに行った方がいいかと聞いたが、
『雫はまだ社会人じゃないからいいよ』とB兄が答えたのでお言葉に甘えた。

次の日、伯父・祖母・父・私の四人で、香典の確認をした。ちゃんと数があっているか、金額はいくらなのか。
(伯父:ご芳名を読み上げる係
父:紙幣を数える係
私:伯父の声を聞いて電卓を打つ係
祖母:外した水引きを元に戻す係)
伯父も父も寝不足で頭が働かず、とても危なっかしかった。

集計した結果香典の数も、お金もちゃんと合っていた。自分が受付をして、ずれていたら大変だったので、心から安心した。

集計のお手伝いを終わらせた後、B兄の車に乗ってB兄・叔母の娘・私のいとこ三人で帰った。車内では叔母の娘の芸能界の話や、某サプリメント会社のシンデレラガールに選ばれたときの裏話だとか、普段聞けないようなことを色々聞けて楽しかった。

(彼女はスポットライトを浴びている。きっと来年売れていると思う。
彼女は昔から美人で、性格が男前だった。自分とは似ていない彼女のことをずっと憧れていた。
彼女が芸能界に行っても全然変わっていなくて、自分にストイックで男前でかっこいいままだったことが嬉しかった。
たまに『雫ちゃんは叔母の娘ちゃんに少し似た顔してるよ』なんて言われることがあるけど、凄く嬉しい。彼女と血が繋がっていることが誇り。)

次の投稿で葬式については終わり